Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

   “年の初めの試しとせ”
 

新しい年を迎えるにあたって、
一年間の穢れを一掃する意味合いから、
大みそかに宮中での行われるのが、
大祓や節折
(よをり)、御贖物(みあがもの)などなという儀式の数々で。
帝や后、東宮の背丈を竹を折って測り、
それによって穢れを祓うのが“節折”で、
御贖物というのは、
帝の朝食のお膳へ“御天勝
(おんあまがつ)”という小さな人形を供え、
帝の御自身の穢れを祓う儀式。
これらはいわゆる“節句”の儀式なので、六月にも行われるのだが、
年末はこれらのほかに、新しい年を迎えるための大掃除、
宮殿からの邪気祓いとして“追儺の儀”というのが行われる。
舎人
(とねり)の皆様を邪鬼に見立て、
これを“方相子
(ほうそうし)”役と20人の童子が、
桃の弓で葦の矢を放って追い払う。
鬼を追い払う儀式、つまりは現代でいうところの“節分”を、
平安の時代には年越しの行事としていたそうで。
そもそも日本の暦は、
くどいようだが今のそれとは随分と違うため、
現代の暦での節分、立春のころが、
丁度 当時の新年にあたったせいでのズレ込みか…と思ったのですが。
実を言うと、
そんな鬼を祓う儀式が節分へと移ったのは、
まだまだ太陰暦を使っていた江戸時代からだそうなので。
ということは、暦の数え方が変わったからってのは理由じゃなさそう。
宮中から市井へ下って来たおり、
室町時代を経ての長い歳月の間に、
少しずつ少しずつ、立春前へとずれて来たってことなんでしょうかね?


 「こっちゃあ もう年が明けてんだ。あとは自分で調べな。」


あわわ、おやかま様から睨まれてしまいました。おっかないよぉ…。




      ◇◇◇



そういった儀式三昧な年末の慌ただしさを、
それらを司る部署の主幹、神祗官補佐として、
パタパタとこなすのでお忙しかったお館様だが、
そちらの方は…言ってみりゃ“単なる儀式”に過ぎぬので。
学問的な知識とお作法さえ心得ておれば、
まま、素人さんでも出来ないこっちゃあない。
それに引き続く“元旦”の儀式の数々にしても同様で、
筆者が虎の巻にしている国語図録の儀式のページによれば、
一月は二十日頃まで、
連日のように様々な行事が犇めき合っているのだけれど。
国事行為としての儀式のお作法さえ遺漏なく押さえておれば、
そちらにしても、まま破綻はなかろ。

 問題なのは、
 陰陽師としての才能や蓄積、
 咒力や馬力の方をこそ必要とされる、
 正真正銘、本物の妖異を相手にせにゃあならぬ場が、
 夏の夜更かしの時節ほどじゃあないながら、
 冬場の、この節季にも結構あったりすることで。

 「年も改まるこったしと、
  日頃は見向きもしねぇ奴までが、神や仏へ手ぇ合わせるもんだから。
  そんな形の信心でも、量が嵩張りゃ結構な力になるんだよな。」

そういった矛先が曖昧な祈祷は、
それでも他愛ない級の邪妖には十分な脅威となるがため。
居どころ無くして迷い出る、小さいのが市中にあふれることとなる。

 「イワシの頭も信心からってのは、よく言ったもんだよな。」
 「お師匠様、それって微妙に喩えが違いますって。」

しかも、以前に同じネタを振ったことがあるぞと、
これは筆者からのツッコミだったが、

 「そんなこたぁ、どうでもいい。」

ううう、あっさりとスルーされちゃいましたか。

 「そのまま、また適当な宿り場を見つけて、
  こそりと住まうようならむしろ問題はないのだが。」

土地神なんぞを頼って集い、
少々性根の曲がった奴輩に吸収されでもしたならば、
どんな手ごわい疫神に、変わり果ててしまうやら。


 「…というワケで。」
 「わきゅで♪」

儀礼的効果というより、防寒の意味のほうが大きいに違いない、
ぎっちりとあれこれ着込んだお館様の肩口に、
畏れ多くもぴょいと乗っかった仔ギツネさんの復唱が、
何とも愛らしかったれど。

 「俺らは北っかわの廃屋近辺を流すから、
  セナは くう連れて、東の道祖神の周辺を見回れ。」
 「はい。」
 「あいっ。」

そろそろ陽も落ちよう時間帯であり、
寒さもあってのこと、ふらふら出歩く人は少なかろう。
それでも迷い出る存在は、
よほどのこと貧しくての居所探す困窮者か、
あるいは…道連れ求める、魂だけの存在か。
道祖神周辺は、
都大路にも間近いため、さほどに危険な存在もいなかろう。
何か出て、それが人なら、セナが早急に対処するだろし、
妖異の類なら…進を呼び出しゃあ立派な破邪への楯になる。
それにそれに、

 『こんのぉ〜〜〜っ!』
 『あ、くうちゃん、ダメって!』

かか〜っ、かっかっか…っと、
背中の毛並みを逆立て、寸の足らない可愛らしい四肢踏ん張って、
おキツネ様の姿を半分ほど現しもって威嚇の態を取ったり。
勢い余ってかぷりと噛みつき、
滅封しちゃると頑張る坊やの身が…逆に危機にでもなったらなったで、

 “こないだは、大鎌振り回す怖いのが出たのを…。”

セナの守護である武神様が出るより早く、
その髪、蛇のように綯った頼もしいお兄さんこと、
ここいらの土地を大きな力で制覇している蛇神様が、
俺のダチへ何ぁ〜にしてくれているのかなぁ?と、
恐ろしい苦笑を口許へ張りつけて現れて。
あっと言う間に粉砕してくれるというから

  …良いのかそんな封印の仕方で。

 「いんじゃね? 取りこぼしゃあ、結局困んのはあいつなんだしよ。」

恐らくも何も、きっとの絶対“確信犯”だろう、
そんな采配をチビさんたちへと下して、さて。
こちらはこちらで、破邪に用いる弓やら護剣やら、
狩衣や外套まとったところへぎっちり装備した、
頭へ金絲を戴く白皙の美貌とその綺羅らかな風貌を、
尚のこと豪奢に輝かせる身支度へ、

 「〜〜〜〜。」
 「…お〜い、顔の焦点が合ってねぇぞ?」

蜥蜴の総帥殿がついつい見ほれておったれば、
当の本人が茶々を入れるのもまたいつものことで。
少しほど自分よりも長身な相手のお顔の前へ、
ずいいっと身を乗り出してくる蛭魔なのへ、

 「わ…っ、な、何しやがるかな。///////」
 「何しやがるじゃねっての。」

 ぼんやりしてっと、詰まんねぇのに遅れを取るぞ?
 馬鹿言ってんじゃねぇよ、
 そっちこそご大層な着物の袖や裾に手足を搦め捕られんじゃねぇぞ?

 「あ"? そうなったら、誰かさんが護ってくれんじゃねぇのかよ。」
 「う……。////////」

お顔を突き出したままな態勢で、
ふふんなんて目許を艶っぽく眇めて笑われたのへ、
そのまま真っ赤になってるところが、
相変わらずに妙なとこだけ純朴な総帥であり。
そしてそして、

 “こんのくらいで たじろいでんじゃねっての。”

俺どころじゃねぇ色っぽいのが迫って来たら、
どうする気だ こいつはよと。
こちらさんもこちらさんで、
あり得なかろう危機へのあり得なかろう展開へ、
はやばやと悋気を燃やしていたりして。


  こんな気構えの方々に守られている、京の都。
  ……って、大丈夫なんすかね、この一年。
(苦笑)
  何はともあれ、今年もよろしくです。

  「よぉちくっ!」
  「あ、こらこら くうちゃんっ。お客様へ…っ。」





  〜Fine〜  10.01.03.


  *久々の全員集合の図を…と思ったのですが、
   何かまだ落ち着けませんので、出発の図だけをとりあえず。
   セナくんも、くうちゃんも、
   そうそうお留守番ばかりってワケでもないらしいです。
   色んな意味で、大活躍だぜvv(色んなって…)

めーるふぉーむvv op.jpg

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